特別ショートストーリー

2020-11-20 | 特別ショートストーリー

アゼルのトレードミッション(part3)

「やれやれ…彼女を好き好むジギの気が知れませんね」


嵐が過ぎ去って軽く息をつく。だがそれも束の間だった。廊下の向こうからこちらに手をあげてやって来るバリアントにアゼルは気づいた。


「ヨヨヨーウ! 帰ってたんだなアゼル、お疲れさん!」
「…………」
「ちょ、出会いがしらになんでちょっと嫌そうな顔してんだよ!」
「ああすみません。さっきの今なのでつい」
「んん?」
「女性の趣味が最悪ですね本当に」
「なんかよく分からんうえに突然ひでぇなオイ!?」


軽口を叩きつつも、アゼルはこっそり口元を緩めた。なんだかんだでジギとの会話は一番気が休まるものだった。
と、そうしてジギと話しているうちに、とあることを思いついた。


「ジギ、これあげます」
「うん? なんだこりゃ」
「あらゆる娯楽を網羅した複合レジャー施設のチケットだそうです」
「あーそういやあったな、そんな場所」
「とある方からのもらい物ですが、私はこれっぽっちも要りませんので。ジギ、フロウさんとここに行ってはどうですか?」
「おっ! そりゃあいいや! なんだかんだで優しいことするじゃねぇのアゼル君! んじゃ遠慮なくもらっちゃうぜ~」


これが当のフロウから回ってきたものだとは露知らず、ジギは嬉しげにしてチケットを受け取った。
アゼルはほくそ笑む。ジギにとって悪い話ではないので騙してはいないし、フロウには自分の行いがブーメランで返ってくるという寸法だ。


「あ、そうだ。ちょうど俺っちもいいもん持ってたんだ。礼にこれやるよ」


ジギは何やらごそごそと腹巻きを漁り、アゼルに一冊の本を差し出した。


「……コミック? これのどこかがいいものなんですか」
「いやな、さっきギャンブルを仕切ってきたばっかりなんだけどよ。賭けた奴が金を持ってなくて、代わりにこれを賭けてな。なんでも、もう絶版してるプレミアもんだから、売ればかなりの値がつくはずだってよ」
「いや、いいですよ。別にお金に困ってはいませんし」
「おうおうアゼル君よ。それを言うなら、金はいくらあっても困らねえもんだぜ! ホラよ!」


胸元にコミックを押し付けられて渋々受け取る。今日はやたらと物をもらう日だ。


「んじゃな~!」


もらったチケットごと手を振ってジギは去って行った。その足でフロウの元へ行くに違いない。
コミックに興味はないし売り払うのも手間な気がするが、部屋に置いて場所を取るのも気になる。そういえばギフテッドにアゼルが抱える情報提供者のひとりがいるが、彼は本屋を営んでいた。コミックを持って行けば、ちょっとした恩を売れるかもしれない。


考えた末、少々手間だがギフテッドの街へ行くことにした。